乙一「箱庭図書館」 初の乙一ワールドにしてやられました。

こんにちは!

桐拭(キリフキ)と申します。

 

今回は乙一(おついち)さんの作品の箱庭図書館を読んだので感想を書いていきます。

それぞれの章でのネタバレを含みます!注意してください!!

 

 

 

『箱庭図書館』とはどんな小説か?

 

これは東京のとある町で起こった6つの物語。

物語を紡ぐ町と呼ばれる文善寺町での出来事です。

 

WEB文芸「RENZABURO」の企画である「オツイチ小説再生工場」で

読者からボツ小説を募集し、それを乙一さんがリメイクするというものだそうです。

 

 

なんでも、作者の乙一さんは小説のアイデアをなかなか生み出せなくって、

「それなら読者から募って、それをヒントにして書いちゃおう。

『ボツ』が送られるってことは、文章を書く経験があってのものだから面白いものも多いだろう」

 

という考えの結果から生まれたそうです!

 

 

 

第1章 小説家の作り方

 

これはこれからの導入になる、わずか20ページほどの短いお話です。

 

小説家の山里秀太(ヤマザトシュウタ)と

秀太の姉である潮音(シオネ)が登場する話でした。

 

秀太が小説家になった経緯が書かれていたのですが、

読み終わった時の感想は「どういうこと??」でした。

2回読んでようやく意味がわかりました。

 

まさか2節は回想だったとは!!

その上2節に書かれているあの文章の意味がわかった時も「まじか!!」

と衝撃を受けました笑

 

初の乙一ワールドで、初っ端からしてやられたっ。という気持ちになりました。

 

 

 

第2章 コンビニ日和!

 

ATMやコピー機もなく、24時間営業でもないコンビニでの物語。

このコンビニでレジをしている、語り手の「先輩」と島中ちよりのところに

コンビニ強盗がやってきて...というお話でした。

 

コメディなテイストで描かれていた為、楽しみながら読めました!

なんといっても島中さんの性格がいいですよね!

 

台詞だけを読んでいると「先輩」に対して悪意ましましっぽいのですが、

2人の掛け合いを読んでいると、お互いに相手を受け入れていることを感じました。

「相方」のような感じだからこそコントみたいで面白く読めたのだと思います。

 

 

 

第3章 青春絶縁体

 

自称もやしの生まれ変わりである語り手が高校で文芸部に入部し、

先輩の小山雨季子とお互いに小説を用いて貶しあっていた。

 

ある日、とあるきっかけから主人公は真面目に小説を書く。

それにショックを受けた雨季子との物語です。

 

青春でしたね!

お兄さん、ワクワクしたよ!!

 

クラスメートの鈴木さんがきっかけでモヤモヤする思春期特有の憧れや自己嫌悪感にすごい共感しました。

僕も高校生の時はインキャの極みでしたので。

 

中高生って、自分では「変わりたいな」という感情を持っていても、

憧れる人物がいても、いざ一歩踏み出すのって難しいんですよね。

 

勇気が出ないっていうのもあるんですが、校則や小中から知っている子がいること、

家族と一緒に住んでいることとか、色々な束縛があるから余計に変わりずらいんですよね。

 

だからいわゆるデビューができる人や一歩踏み出せる事はすごい事だと思います。

 

この主人公も先輩に自分の思いの丈を伝えていて、拍手喝采の思いでした。

 

 

 

第4章 ワンダーランド

 

この話は結構ウェイトが重かったですね。

これまでの話が読みやすかったのもありますが、人が普通に殺されているので…

 

あと、この話には2回騙されましたね!

自分の思い違いだとわかった瞬間「あ?え…あぇ?」とか間抜けな音を発してしまってましたので!

 

1つ目は、語り手についてです。

犯罪者の今と過去の回想との話だと思っていたのですが、

舞台は「現在」で犯罪者と少年の視点の話だったとは!

 

自分が思い違いをした原因は、最初の犯罪者の視点での文章だと思います。

 

こいつは、鍵と鍵穴の関係なんだ。夢で見たんだよ。(中略)鍵と鍵穴の関係さ。あるいは男と女だよ。神様は男と女にわけたんだ。神様は馬鹿野郎さ。

 

この文章です。私はこの文章に騙されました。

今から思えば騙す気満々の文章でしたね。

 

これに加えて、少年の時の口調が自分の過去を語るような口調で

過去形を多用するために余計に騙されたのだと思います。

 

一人称小説では話を過去に起こった事風に語るのは良くあることやけどな!!

 

もう一つの「騙された」はあえて書かないことにします。

ぜひみなさんも読んでみてください。絶対に騙されるので。

 

この物語は現在か過去か夢か現実かがわからなくなる話で大変面白かったです。

 

 

 

第5章 王国の旗

 

主人公の小野早苗が車のトランクに乗ったことが原因で、場所が不明の子供の王国(廃ボーリング場)に迷い込む物語です。

そこは夜になると家から抜け出した子供達が集まり、名前をすて自由に遊び、夜が明ける前に戻り普通の暮らしをするというものでした。

 

どこかトイストーリーや昔のジブリ作品を思い出させるようなお話でした。

 

結局その王国はどこにあるのか、早苗が乗ってきた車は誰のものだったのか等

疑問はめちゃくちゃ残るのはきっと僕が理系で事実関係とかをはっきりさせたい性格だからだと思います。

おとぎ話のようなミステリアスな雰囲気があるからこそ、この話は楽しく読めたのだと思います。

 

 

 

第6章 ホワイト・ステップ

 

大学院生の近藤裕喜が元日に公園に行くと雪に足跡がついていた。目を離したら足跡が増えていて...というお話。

 

パラレルワールドの人物と雪を通じて会話をするというのが面白いですね。

 

何よりストーリーがめっちゃ幻想的。読んでて涙がこぼれました。

 

「人生はただ歩き回る影法師」といえどもその儚い中でも誰かのために慣れることがあるならそれはすごく有意義なことだと思います。

人は支え合う生き物。他人の助けになるからこそ意味があるのではないでしょうか。

 

100ページ以上あり文量的には一番多かったのですが、すごい引き込まれる世界観でした。

 

 

 

全体を読んでの感想

 

乙一作品をがっつりと読むのは初めてでしたが、手を出してよかったと思っています。

それぞれ違ったジャンルにも関わらずそれぞれ違った面白さがあるところがすごいなと思いました。

 

共通の舞台で数多の話が起こるというのが宮沢賢治を思い出しました。

 

面白く読んだこの作品ですが、

読んでいて疑問点が残ったのが1つあります。

 

それは、漢字表記でなくひらがな表記の単語が多いということです。

例えば、「ひつようない」「さがして」「しんぱい」など探せばたくさん見つかります。

最初にこれに気になったのは5章の時で割と遅かったのですが。

何か物語と関係があるのかなぁと思いながら読みましたが、あまり関係なさそうでした。

作者のクセかな?

 

唯一それだけが疑問に残りました。

きっと他の作品を読んでもそのような感じならきっとクセなんでしょうね!

 

 

乙一先生の小説を読んでみて乙一ワールドっておもろいですね。

他の作品にも手を出してみたいです!!

 

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
みなさんもいい本に巡り会えますように。

 

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